- Eggs
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2024
Belgian-made leather (outside)
Cork (inside)
L300 x W180 x H225
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誰も見たことのない、新しい靴を生み出したい-一貫してこのテーマで靴作りを続ける三澤にとって、創作の起点とは、靴づくりとの出会いだった。そう信じて疑わなかった。しかし、本当にそうだろうか?新作制作に当たり、自問自答しながら、ものづくりの原点に立ち返ることで見えてきたのは、3歳から常に手を動かし、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら、独学で工作していた自分の姿だった。
ものづくりに明け暮れた幼少期。胸の奥から、ワクワク、ドキドキしながら、夢中で作っていたあの日々。あの感覚をもう一度自分の中に取り戻したい。そう思いながら、アイディアの源泉であるドローイング帳をめくっていて目に留まったのが、卵の殻のひび割れたイメージだった。真ん丸でなく、我々動物が命を育む完全な形状であり、それゆえに安心感や安定感をも喚起する、曲線の究極形とも言える卵のフォルム。これを今の自分が持つ知識と技術力で表現してみたい。それも、履いて歩ける靴として。
恐竜の卵のような、ユーモラスで愛らしい物体。ジグザグに割れたひびから、白身と黄身が覗く。一見、革製のオブジェのようだが、ここは注意深く、じっと見つめてほしい。そう、驚くなかれ、実はこの靴、歴としたオックスフォード構造で作られている-トーキャップがあり、ヴァンプがあり、靴紐を通す鳩目こそないが、羽根がある。ヒールカーブ(踵)に継ぎ目もある。裏返すと現れるのは、きれいに焼き上がったシャンピニオンに似た姿。そのあまりの可愛らしさにふっと頬が緩む。形の肝である丸みは、リアルな卵の形を表現すべく、絶妙なバランスでコルクを詰めた。全方位で楽しめるこの柔らかな卵型は、紛う方なき、ヒールレスシューズなのだ。
かたちはあなたのせかいそのもの
かたちはあなたのなかにある。
とは、マーシャ・ブラウン著・谷川俊太郎訳『目であるく、かたちをきく、さわってみる』の一節だが、新作「Eggs」は、三澤の中で育まれてきた「かたち」と、それを自身の手によって、目に見える「かたち」にする歓びが生んだ、三澤の「せかい」そのもの、これまでの集大成となる作品だ。