- 無垢 / 勾玉
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2022
- きっかけは、とある料亭で食べた料理だった。一流と言われる日本料理人が作る料理は、奇抜さや過度な装飾が一切なく、何よりも自然への畏敬の念を感じさせる、素材を最大限に生かすことに専念したものだった。「Muku」は、昔ながらの製法で一年鞣された底革一枚と水のみで作られた靴である。底革(オークバーク)を水につけると、水中に革から滲み出た渋が寄ってくる。その液体を、革を染める溶液として利用し、バランスを加減しながら「染める」ことで、味わい深く、表情豊かな独特の色と景色が生まれた。アッパーは、5ミリある固い革を1.2ミリまで包丁で剥き、通常の靴作りの手順で唯一無二の靴に仕上げた。
「Muku」を引き立てる、同じく靴の底材で制作した作品が「Magatama」だ。靴を靴たらしめ、その美しさを決定づけるカーブとは何か。この問いから出発し、探究しながら線を重ねていくと、そこに現れたのはなんと「勾玉」だった。古来より、身を守る装身具として、あるいは呪術具として、のちには皇位を象徴する3種の神器の一つとして知られる勾玉。純粋に、靴の曲線美を追求した先に現れた形が「勾玉」と一致した驚きを、そのまま革で表現した。緻密な設計図を下に木型にカーブの中心を固定し、形を崩さないよう細心の注意を払いながら、左右一枚ずつ革を貼り、削る、を繰り返す。かくして、平面だけでなく立体的にも滑らかに嫋やかにうねる、革の「Magatama」が完成した。
機能美を兼ね備えた靴の芸術性を追い求め、身に着けてきた三澤の圧倒的な技術力があれば、シンプルな素材、それも固くて靴底用とされる革一枚で、一級の工芸品ができることを、雄弁に物語るコンビネーション。