- 足の巣
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2020
British-made leather (layers of leather)
German-made leather (outside)
L480 x W120 x H470
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靴職人三澤則行がアーティストとして最初に作品を発表した個展のタイトルは「interior shoes(履けない靴)」(2014)だった。オーダーメイドの靴職人として培った技術を存分に駆使しながら、狂気すら感じさせる造形美への探究心が細部に宿る作品に、見る者は息を呑んだ。その後、タップダンサー、イラストレーター、ミュージシャンなど国内外のアーティストと音楽をテーマに「履ける靴」のコラボレーションを次々に経験する一方で発表された作品が、「Vehicle」(2019)だ。ビジュアル・ヒューチャリストのレジェンドとして世界中のクリエイターに影響を与えてきたアーティスト、Syd Meadへのトリュビュートとして制作された作品は、その名の通り、「乗り物」。三澤が靴作りに於いて追求して止まない、造形美と機能美を兼ね備えた近未来の靴は、見る者をあっと言わせた。
そして、本作、「足の巣」(2020)の登場である。ハイヒールに足を滑らせるように、足を「置く」。その外側の空間の視覚化を試みた作品だ。通常の靴作りのように、平面の革を足に沿うように這わせ、面を構成しながら形作るのでなく、足の周りの空間を造形してみせた。選んだ素材は、靴のヒールに用いる革。足の周りの空間を埋めるように、革が幾重にも積み上げられ、重厚感をもたらすレイヤーは、まさに、動物や昆虫が作り出す「巣」だ。すべてが手作業で為されたとは俄かには信じ難い、卓越した技術は本作でも余すところなく発揮されている。
「想像とは、アイディアの組み合わせが何であれ、複数の要素をまとめる創作であり、経験から得た知識を新しいフォーマットにアレンジしていく一連の行為である」と、かつてSyd Meadは言った。コロナ禍で外出が制限され、家で過ごす時間が増えるなど、従来の生活形態の変容が迫られる世界で、靴も「歩くための道具」だけではなくなるかもしれない。そんな現代に、三澤の「足の巣」は、靴というものの新たな様式を提示している。