- Ruins(廃墟)
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L280 × W100 × H115mm
イギリス製ヴィンテージシューズ
2016年作。
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靴職人として、常に完璧な靴を目指し全力で制作する三澤が、靴作りと離れた場所で心惹かれるのは、不完全で、不規則な、移りゆく時間の痕跡を感じ取ることができるものだという。「Ruins(廃墟)」は、2016年に訪れたワルシャワの街で目にした、漆喰が剥がれ落ちて中のレンガが露わになった、いくつもの建物の壁の風情からインスピレーションを得た作品である。脳裏に焼き付いた、時間がもたらす荒廃の中に見出した美を、自分なりに靴で表現したい。
使用したのは、その美しさ、作りの精巧さ、希少さから、靴コレクターの憧れの的である伝説の靴職人Nikolaus Tuczek作の3足だ。すでに靴としての役目を終えた3足をばらし、ワルシャワで惹かれたイメージを形にすべく、パーツを組み合わせて再構築した。寂びた趣を出すため、バーナーで焼く、グラインダーで削り込むなどしてダメージを与え、つま先は口を開き、中の糸を露わにした。
100年程前のイギリスで先達が作り、履くことが不可能となったヴィンテージをばらし、自分の技術によって新たな命を吹き込む制作は、一度死んだ靴を蘇らせるようで純粋に心躍るものだったという。
Tuczekの靴で何ということを...と顔を顰める靴愛好家もいるだろう。しかし、少数の靴愛好家が絶対視して評価する靴の価値基準は、往々にして、靴の美を狭くつまらないものにしていないだろうか。なぜなら、伝統を重んじながら新しいものを作り出すことは、これまでも職人が、アーティストが、成し遂げてきたことであり、彼らの矜持でもある。「Ruins(廃墟)」には、靴の美を窮屈な型に押し込めようとする向きへの三澤のアンチテーゼが込められている。